正規職員として医療施設で働く看護師は、夜勤などの不規則勤務が避けられず人手不足の影響もあって、激務を免れないことが少なくありません。
そこで、より働きやすい勤務形態を求める方も多くいるようで中でも看護師が派遣社員として働く勤務形態に注目が集まっています。

しかし、看護師が派遣社員として働くことは、法的に問題ないのかと疑問に思っている人も多い事でしょう。
そこで今回は看護師が派遣社員としてとして働く事のあり方や違法性について、解説しましょう。
派遣法の改正で看護師も条件を満たせば派遣できる事に
1986年に労働者派遣法が施行されてから、派遣業は次々と解禁されていきました。
最初はわずか13種類だけの業種で認められていたのですが、次第に規制緩和が進み、大半の業種で派遣できるようになったのです。
看護師が派遣社員として働くことも、違法ではありません。
2006年に行われた法改正により、それまで禁止されていた看護師の派遣が条件付きで合法となりました。
2015年にも派遣法改正がありましたが、看護師派遣については変更がなく引き続き認められています。
しかしながら、未だに看護師の派遣は違法だと考えている人が少なくないようです。
これについては、1999年に指定されたネガティブリストが原因ではないかと言われています。
ネガティブリストとは、派遣を認める範囲を大幅に広げる方針を示すために、派遣を認めない業種だけを列挙した一覧表を指します。
当初そこに列挙された業種には、弁護士・公認会計士・税理士などの士業や湾港運送業務のほか、病院・診療所での医療業務も含まれていました。
病院・診療所での医療業務に派遣が認められない以上、看護師の派遣が認められないと誤解する人がいたとしても仕方ないのかもしれません。
しかし、今では港湾運送業務・建設業務と警備業法で認められていない職種の3種類だけが、ネガティブリストに挙げられているだけです。
そもそも、1999年までのポジティブリストでは派遣を認める業種だけを挙げていました。
これを廃止してネガティブリストに切り替えたわけですが、未だにポジティブリストの印象が強く、ネガティブリストに載っていない看護師の派遣が認められていないと勘違いする人もいるのです。
具体的にどんな条件なら看護師派遣が大丈夫なの?
看護師の派遣が認められたとはいえ、無条件に全面的な許可がされたわけではありません。
看護師派遣が認められる場所や職種は限定されています。
まず、原則として医療機関に看護師を派遣することはできません。
看護師の派遣が禁じられている医療機関とは、次に挙げるものを指します。
- 病院
- 診療所
- 助産所
- 訪問入浴介護と訪問予防入浴介護を除く介護老人保健施設
- 訪問看護師が訪ねる患者の自宅
したがって、医療機関以外の看護師業務は派遣が認められているという事ですね。
ただし、医療機関であっても、以下の場合は派遣が認められます。
- 離島・へき地にある医療機関
- 厚生労働省令により指定された地域で就業する場合
- 産休・育休代替
- 3ヶ月から6ヶ月後に正職員など直接雇用に切り替わることを前提とした紹介予定派遣
具体例として地域を挙げると、以下のようになります。
- 世田谷区にある病院の長期派遣
- 世田谷区にある病院の産休代替による長期派遣
- 小豆島の診療所の短期派遣
- 小豆島の診療所の長期派遣
- 訪問看護ステーションによる小豆島への長期派遣
なお、

と思われる方もいるかもしれませんが、実は医療機関以外にも看護師の勤務する職場はあって、例えば医療機関でない勤務場所としては以下の職場が挙げられこれらの職場であれば看護師の派遣が許可されています。
- 訪問入浴介護と訪問予防入浴介護を行う介護老人保健施設
- 健診センター
- 訪問介護センター
- 有料老人ホーム
- デイサービス
- 特別養護老人ホーム
- 保護施設・児童福祉施設・障害者施設などの社会福祉施設
- 保育園
派遣看護師のメリットを紹介!
派遣看護師は、様々なメリットがあります。他の派遣業と同じように、派遣看護師は時給制で給与を取得します。
他の職種よりかなり時給が高いので、月収としては比較的高額になると言えるでしょう。
正規職員のようにボーナスが出ることはありませんが、年収としては派遣看護師も正規職員に劣らない額を手にすることができます。
また、時給の低い地方の勤務地であっても、派遣看護師の給与だけは高額が保証されていることも珍しくありません。
さらに、日勤だけであったり夏休みの短期間に集中して働いたりするなど自分の希望する時間帯や期間に働くことが可能で、育児や家事と両立したい看護師や趣味や経験を優先したライフワークを送りたい看護師には派遣が向いています。
そして、サービス残業を免れることも派遣看護師の大きな魅力です。
派遣業の場合、直接雇用と異なり残業代や夜勤手当は原則として全額支給されることになっています。
直接雇用の場合サービス残業などが横行しやすいのですが、派遣看護師は間に派遣会社が入っていて派遣元に支払われる派遣料金に対しても残業代が発生するので、1日の労働時間が8時間超になると1時間につき最低でも派遣料金の25パーセント以上の割増賃金を支払わなければなりません。
その派遣料金から派遣労働者の給料が支払われるので未払いの心配もありません。
また、夜10時から朝5時までの深夜労働についても時給の50パーセント以上の割増賃金を支給しなければならないことになっています。
尚、先ほど書きましたがこれらの割増は派遣料金に掛かり賃金への割増以上にコストがかかります。
そこで、残業代を節約したい派遣先企業が派遣看護師に残業させないように努めることになるのです。
仕事内容についても、派遣だからといって雑用ばかりやらされるわけではありません。
派遣看護師も正規職員の看護師と同等の職務を与えられます。
点滴や採血など医師の指示に従って医療行為を行うことになります。
特定行為研修を受けていれば、派遣看護師であっても医師の包括的指示だけで医療行為を施すことが可能です。
それから、派遣看護師はあくまでも外部の社員なので、現場の人間関係に翻弄されることが少ないと言えるでしょう。
現場の正規職員と一定の距離を置くことにより、軋轢を回避することができるのです。
どうしても現場の人間関係がうまくいかない場合には、派遣元企業に相談して派遣先を変更してもらうことも可能です。
また、対応の難しい患者などは正規職員が担当することになり、派遣看護師には重責の職務がまわってきません。
看護師が参加する研修や勉強会についても、派遣先に費用負担が生じることから派遣看護師は免除されることが多いと言えるでしょう。
研修以外でも、派遣元企業が派遣先企業と契約していない業務については派遣看護師が遂行する義務を負わないので、余計な仕事を任されることもありません。
万一派遣先企業が派遣看護師に契約外の業務をさせようとした場合には、契約違反として派遣元企業から抗議してもらえます。
ただこれは逆に高度なスキルは身につきにくいという事にも直結します。
これからスキルアップしていきたいという人には正社員の方がいいかもしれません。
もし違法な派遣で働いてしまっていたら?
派遣法に違反する勤務形態で働いたとしても、労働者である派遣看護師が責任を追及されることはありません。
違法と認識しつつ派遣看護師を受け入れた派遣先企業が、給与や労働時間に関して派遣契約と同じ労働条件の下で派遣看護師を正規職員として直接雇用しなければならないのです。
もちろん、派遣看護師は派遣先の直接雇用を受け入れる義務がなく、派遣元に別の派遣先を要求することもできます。
派遣元企業についても、違法な派遣をした責任を問われます。派遣看護師は罰せられることがなく、あくまでも違法派遣の責任を負うのは派遣元企業と派遣先企業だけなのです。
なので、もし違法な状況下で仕事をしていたとしてもある種安心して仕事ができると思います。
ただ、労働基準局にその事が露見した場合派遣元と派遣先は契約を解除しなくてはならず、派遣先の直接雇用を断った場合は新しい職場を探さなくてはいけないので早めに抜けられる準備はしておきましょう。
派遣看護師として働くことも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか?
働き方改革により、看護師の勤務形態も多様化しています。
正規職員の夜勤を免除したり、短時間労働の看護師を採用したりする医療現場も珍しくありません。こうした流れの中で、派遣看護師も給与などの待遇が良く柔軟性のある勤務形態として認められつつあります。
看護師派遣が合法であり、法的トラブルに巻き込まれにくいメリット等を考慮して、看護師の勤務先として選択肢の1つに加えてみても良いかもしれません。